料理を始めたワケ
私は料理のできない頃から、料理のできる男に憧れていた。
レストランも電気もない場所で、長期間にわたり登山をしたり砂漠を
横断したりということになると、当然自炊をしなければならないが、
私は常に誰かが作ってくれた食事のおこぼれにあずかっていたから。
その誰かが男で、手際よくスイスアーミーでじゃがいもの皮を切り、
火を起こして、カレーを作るとなると、「なんてカッコいいんんだろう」と
羨望の眼差しで彼を眺めたものだ。
なんたるサバイバル能力! なんたる生活力!
こうして私は、男の魅力を測る尺度として、「勉強」+「スポーツ」+「アート」
の他に、「料理」という分野が存在することを知ったのだった。
だが、私は30代後半になるまで料理らしい料理をしたことがなかった。
その理由は「怠惰だった」ということに尽きる。毎日帰宅が夜の9時くらいの
職場だったので料理をするという発想すらなかった。実際、料理を本格的にする
ようになったのは、その会社を退職して時間ができてからだった。
しかし、(料理ができるようになった)今となっては、料理ができるように
なったというだけでも、退社した意味があったと思うほどである。
そう考えると、いささか極論かもしれないが、長時間労働と終身雇用制が
日本人の男に料理をさせない要因となっているのではないか?と思うのである。
60才で定年退職したオジキが、料理はおろかインスタント・ラーメンすら
作れないため、奥さんが友達と二泊三日の温泉旅行にも行けない、という話は
巷間あふれているではないか。
いずれにしても、料理をすることで人生は豊かになる。
①食べたいものが食べられる
あなたの恐妻が、油料理をしない、冷凍食品通、水炊き鍋専といった
「呆れた」輩だとしても、自分で好きなものを作ってしまえばよい!
(前述のオジキなど、奥さんに先立たれた場合、どうするのだろうか?)
②好みの味付けにできる
あなたの恐妻が、塩分控えめ、薄味マニア、甘口カレー派といった
「ヘルス」派だとしても、自分で好きな味付けに調整してしまえばよい!
③倹約にもつながる
ある程度できるようになれば、外食に行かずとも、自宅の料理で自画自賛。
④人に喜ばれる
料理は利他の行為たり得るところが素晴らしい。ただし、まずいものを食べ
させられるほど辛いものはないので、他人に食べさせる料理は、十分に腕を磨いた
ものでなければならない。
もはや料理を人任せにはしていられない、という心境である。