カリフォルニアの美青年
私はバンコクからエアコンの効きまくったワゴンバスに乗り、リゾート地
プーケット島にやって来た。しかし金をケチって、繁華街から離れたバン
ガローに泊まっていたのが災いしたか、話相手が捕まらず、滞在三日目に
して完全に退屈モードに入っていた。
その日も私は手持無沙汰に近くのビーチで寝そべっていたが、いつもの通り
人影も見えないばかりか、急に小雨が降って来たので荷物をまとめて立ち上
がろうとすると、少し違和感を覚える(と言っても流暢な)日本語の声が
聞こえた。
「あなた日本人でしょ?雨が降ってきちゃったね」
振り向くと、若かりし頃のブラピを彷彿とさせるすらっと背の高い金髪の
男性。ブルージーンズに白いTシャツの出で立ちで、とても爽やかな顔を
している。
「日本語喋れるの?」
「東京の英会話教室で2年間働いていたんだ」
「ふ~ん、それで出身はどこなの?」
「カリフォルニア。ところで、あなたも一人旅?」
「そう」
「どこに泊まってるの?」
「すぐそこのバンガロー」
「だったら、今晩一緒に飲まない?なんか酒でも持っていくから」
「分かった。じゃあ、7PMに来てくれる?」
「OK。遅くなったけど、ぼくの名前はジャスティン」
人恋しかった私は、久しぶりに誰かと飲めるだけでなく、自分と年齢の近い
アメリカ人と飲める機会ができてラッキーだった。
7PM前にジャスティンはやってきた。手に二本のメコン(タイのウイス
キー)の小型ボトルをぶら下げいる。私は缶ビールを半ダースと
ポテトチップスを事前に用意しており、ふたりは小さなテーブルを挟んで、
籐椅子に座り、談笑を始める。
「カリフォルニアで何の仕事をしているの?」
「ファッションモデルの仕事」
「どうりでカッコいいわけだ」
「そんなことないよ・・・」ジャスティンははにかみながら言う。
酔いが回れば回るほど、私は不必要にも関わらず、下手な英語で話し出す。
「あなたの英語、とっても上手だね」とモデルからおだてられたことも
手伝い、私は自分が英語のできることをアピールしようと躍起になった。
ふたりが何度もトイレに立ちながら、すべてのアルコールを飲み干した頃に
は夜も更けていたが、ジャスティンは呂律が回らぬ状態で、
「ぼく日本でマッサージの勉強をしたんだ」と言った。
「へえ、色んなことに興味持ってるんだね」
「やっぱりマッサージは東洋の文化だからね。もしよかったらマッサージ
してあげるよ」
「ごめん、俺、肩こってないし、いいわ」
「そうなの?でもちょっと勉強したいなあ。少しでいいからマッサージさせてよ。嫌だったら、すぐに止めるから。ね、いいでしょ?」
すでに3時間も4時間も一緒に飲み、完全に意気投合した彼から嫌われたく
ない(こんな所に日本人の白人コンプレックスを垣間見る思いである)
思いから、私は渋々ベッドに横たわることにする。
「ツボの位置が分からないから、Tシャツだけ脱いでもらえる?」
「ほんと?」
「心配しないで。問題ないから」
「どう?気持ちいい?」彼が私の肩も揉むうちに、うつ伏せになった私は
一気に酔いが回り、悦楽の底に落ちていた。
「大丈夫でしょ?」と言われても、もはや声も出ない。
「じゃあ、ゆっくりズボンを下ろすからね?」
「うん」私は反射的にそう言い掛けた瞬間、私はガバッとベッドから飛び起
き、ずり下ろされそうになったズボンとパンツを引きづり上げる。
「おい、テメー、なにやってんだよ!」
「ぼく、実はバイなんだよ!」
「そんなの知れねーよ」
「君とエッチしたい」
「居直ってんじゃねーよ」
「プリーズ!」
「今すぐ出て行ってくれ!」
こうして日米友好のはずが、最悪の夜となった。