インドでビジネス
多くの企業にとって、インドは経済成長が著しいとは言え、依然として
未知の国である。とりわけ新規事業を起こす場合には、マーケットの特性や
動向を一から確認していかなければならない。
私は主要都市を巡回しながら、電気製品のユーザー、流通、競合状況などの
市場実態を自らの目で確かめてみることにした。その結果を下に、市場参入の
ための戦略とマーケティング計画を策定するのが、次のステップとなる。
しかし日本人だけでは取れる情報が限られ、物事の判断を誤る可能性がある。
私は社内にいた三名の候補者のうち、最も能力が高いと思われるタルンと
いう新入社員の男性をアシスタント・マネジャーに採用した。
そしてインドの四大都市デリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタに加えて、
アーメダバード、プーネ、バンガロール、ハイデラバードを加えた八大都市、
さらにそこを基点とした周辺二級都市を巡回する旅が始まった。
各都市での調査内容は、概ね以下の通り。
◆家庭訪問を実施
~これにより一般人による家電製品の使用実態を調査
◆全国チェーンの電気量販店の訪問
~これにより各社の定番採用商品、売れ筋商品、売価、販売台数、販促内容、
店頭プロモーターの有無を確認
◆全国に数千店存在するディーラーと呼ばれる個人商店の訪問
~確認内容は電気量販店と同じ
◆ディーラーに商品を卸している問屋の訪問
~これにより傘下にあるディーラー数と販売台数、流通マージン、該当地区に
存在する同業他社数、競合メーカーの動きを確認
◆アフターサービス業者への訪問
~これにより返品および部品交換の内容と発生率、価格体系と人員体制の確認
若くて優秀なタルンをアシスタントに採用したのは大正解だった。
全国各地でインド人にインタビューする際、言語と文化が異なる日本人から
インド人に話を聞くよりも、インド人同士のコミュニケーションの方がより深い
情報が取れる。
また、ホテルの予約やタクシーの運転手に行先を伝えるようなことでも、
インド人のアシスタントがいるといないとでは、効率性のみならずストレスの
かかり方が大違いだった。
それにしても、インタビュー先のインド人の気前の良さは見上げたものだった。
近い将来競合相手となるメーカーですら、私の身元を承知した上で、知りたいこと
は何であれ包み隠さず教えてくれる人。
あるメーカーの専売店に至っては、従業員の給与体系まで進んで教えてくれたが、
それは情報守秘の意識がないということではなく、インド人が生来に持つ相互扶助
の精神の顕れだった。
これらの活動を通じて、私は各都市における市場実態を把握しながら、事業を成功
させるための必要条件や想定される販売台数を浮き彫りにしていった。