【海外で働く!就活日記】最終面接突破

二次(最終)面接にいくと、会社のレセプションの前で棒のように突っ立って

いるアジア人男性の後姿があった。

「ソファーにも座らず、無人のレセプションの前で、受付嬢がやってくるのを

直立不動で待ちわびているとは、きっと彼は日本人に違いない。だとしたら、

彼も最終面接を受けるライバルだ!」と私は踏んだ。

 

華奢な後ろ姿の彼は、今時の洒落た紺色のスーツを着てそのまましばらく立って

いたが、私が彼の背後でソファーに座っているのが気になったのか、やがて

私のソファーの横に腰をかけた。

彼の横顔をチラ見すると、ジャニーズ顔のイケ面である。二宮君(仮称)は、

腕時計を見つめたり、上着のポケットからスリムな手帳を取り出したりして

ソワソワしている。日本語でぶつくさ呟いてもいるので、私のことを中国人か

韓国人と思っているのかも知れない。

 

二宮君は明らかに緊張していた。おそらく私の10倍くらいは緊張していた

だろう。彼にとっても千載一遇の最終面接の機会に違いない。受付嬢がやって

来ると、二宮君は私の後から最終面接を行う社長のアンドリューに取り次いで

もらっていたが、手違いで若い中国系のアンドリューが現れると、二宮君は

再び直立不動となって「あーでも、うーでもなく」、無言のままガンを飛ばす

ものだから、髭面のアンドリューも「なんじゃ、貴様!」と言わんばかりに、

ガンの飛ばし合い。

 

私はこの時点で勝算は高いとみていた。それは二宮君が緊張しているからでは

なく(緊張が好感を呼ぶことはある!)、「手ぶら」でやってきたからだ。

持っているのは上着に隠した手帳だけ。

それに対して私はここが勝負と見て6時間ほど費やし、「この会社でこんな

営業活動をしたい」といった趣旨のプレゼンテーションを用意していた。

(時として「やり過ぎ」がアダとなる場合もあるのが就活であるが、私の

この時の心境は、そんな会社なら入らない方がいいという気持ちで、プレゼン

を用意していた)

 

最終面接は、私からスタートしたが、幸いこのプレゼンは大いに役立った。

社長との面接ではあっという間に30分が経過。

その後二宮君の番となるものの、たったの10分足らずで終了。しかも彼は

会議室から出て来た途端、エレベーターの前で立ち往生しながら鬼の形相で

辺りをキョロキョロと見渡している。

 

「トイレを探しているのか?」見ず知らずの中国系のおばちゃんが声を掛けると、

二宮君は「イエス」と蚊の泣くような声で言って、猛然とトイレに駆け込んで

行く。結局、これが私が二宮君の姿を見た最後だった。。

 

それから1時間後、リクルートエージェンシーからの電話が鳴り、私はこの会社

に正式採用されたことを知った。

しかしこれからしばらくの日々、二宮君が携帯とにらめっこしているでであろう

ことを考えると、彼のことが少なからず気の毒になった。