ヨガ行者と共にラッシーを頂くの巻
人生で一番おいしかった飲み物は?と問われれば、私はインド・グジャラート州
の田舎町で飲んだラッシーと答えるだろう。
ラッシーとは、ヨーグルをベースに、水や砂糖を混ぜた飲み物である。
バナナやマンゴーなど、フルーツを混ぜる場合もあるが、日本のインド料理屋
にも必ずと言っていいほどある。
2年ほど前、私はガンジス河で出会ったヨガ行者「ババジ」の「お付き」を
していたのだが、ある日、「遠くカルカッタからグジャラート州まで遠征に
来ているババがいるので会いに行こう」と言われ、彼と共にオートリキシャー
に乗った。
到着したところは公道脇の淋しい場所で、砂と埃まみれになった汚いテント
が張られていたが、ババジは「ここじゃ、ここじゃ」と言って、中に入って
いく。すると中には、縮れ毛の黒々とした髪の毛と胸毛のババがいた。
このババ、今の日本ではお目に掛かれない風貌であり、もっと言えば一見野蛮人
か野性の動物のようにも見えるが、よくよく見るととても目が澄んで、なかなか
美しい顔をしている。ハタヨガの大聖と言われるババジにババ(ヨガ行者の尊称)
と呼ばれるだけありしかるべき人物に違いない。
ババジとババは旧交を温めるべく、有史以前からの由緒正しき伝統文化である
聖草の回し飲みを始めた。
しばらくして落ち着いた頃、ババは思い出したようにテントの奥の方に
歩いて行き、銀の器に入ったラッシーを3人分持ってきた。
「オイ!こんな汚ねえテントで、海千山千のババ連とラッシーなんか飲んで
大丈夫かよ。だけど、ババに出してもらったものを断る訳にもいかねえしな
あ・・・」
日本人旅行者の場合、インドの普通のレストランでラッシーを飲んでも下痢
することが多いため、「まあ、下痢で済んだら御の字、赤痢かコレラくらいは
覚悟するべ!」と私は腹を括り、銀の器にたっぷりと入ったラッシーに唇を
つける。
ところがどうだろう?「うますぎる!それにクーラーも冷蔵庫もないのに、
なんだこの冷たさは!」私は感動の余り、コップを一気に飲み干した。
念のため付け加えるならば、私はこの時聖草を一切口にしていない。
つまり完全なシラフであった訳であるが、もしもババ連と一緒に聖草を口に
でもしようものなら、このうまさは何倍、いや何千倍にも膨れ上がり、
私は銀河を駆け巡るとぐろを巻いた黄金の龍にでも乗った気分となり、
ババ自家製のラッシー樽に頭から突っ込み、場合によってはラッシーの甘さの
海に溺死してしまうという事故を起こしていたかもしれない。
結局、待てども待てども下痢はやって来ず、私は改めてヨギの偉大さを知ったの
だった。