英語は度胸か?

現地校に通う日本人の小学低学年の子供が、(たった数年の学習だけで)

英語の映画や音楽が聞き取れるのに、大人になってからではそれが絶望的

に難しい。

私の見立てでは、たとえ外人と結婚しても、20代以降に英語圏で暮らし

始めた日本人がバイリンガルになるのはまず不可能ではかろうか?

だからこそ、英語は終わりのない旅のようなものであり、取り組む価値が

あるとも言える。

 

しばしば英語のできない輩は、海外生活が長い人間に対して、

「俺なんか海外に住んだことがないんだから、英語ができるわけないじゃん」

と自己弁護をしつつ、「何年も海外に住んでいるあなたは当然英語がベラベラ

なんでしょ?」といったような寝言を言う。

しかし、そのような輩は、「たとえ海外に留学しても、移住したとしても、

日本で身につけた英語力が平行移動するだけである」という事実をまず理解

しなければならない。

早見優や西田ひかり、あるいは山口美恵といった子供の頃

から欧米に住んだことのある良家の子女を除いて、大人になって海外に住んだ

からと言って、バイリンガルになった事例をあなたは知っているだろうか?

もちろん英検一級やTOEIC900点台くらいであれば、ゴロゴロいるであろう。

だけど、私に言わせればそれはバイリンガルとは違う。バイリンガルとは英語の

音楽が聞けて、映画が字幕なしで見れて、英語の新聞がすらすら読めることである。

 

海外に何年住んでも英語力が貧しい格好の例が珠代さんである。

50代前半の彼女は、商社に勤める夫に従い、過去にニューヨーク5年、

ミラノ4年、そして現在シドニーでの生活が4年目という人もうらやむ

華やかな人生を送っている貴婦人である。

ある日、私は時間に少し遅れて英会話教室に入っていくと、珠代さんの隣の席

しか空いていなかった。普段、この教室では、授業の途中で二人一組のペアーと

なり、先生から渡された一問一答集を見ながら英語で意見交換を行う。

私はそれを珠代さんとやるのが嫌さに、いつもはスペイン人やインド人の横に

座るのだが、その日は珠代さんの横しか席が空いていなかった。

しかも、その日のトピックは運の悪いことに、「資本主義について」。

以下、私は一問一答集の紙を見ながら、珠代さんに質問する。

 

質問1、What is capitalism? (資本主義って何?)

珠代:(日本語で)えー、難しいー。資本主義って何?って言われてもねえ・・・

考えたことないわよ

 

質問2、Is Capitalism the best economic system for the world? (資本主義は世界の

経済システムで最良のものですか?)

珠代:えっ、えっ、わかんない。えっーーー?

 

質問3、Who likes capitalism? (資本主義を好むのはどのような人達でしょう?)

珠代:資本主義が好きかって聞かれてもねえ?

 

質問4、Who suffers from capitalism? (資本主義の恩恵を得ない人は?)

珠代:資本主義で病気になっちゃうの?

 

質問5、Will the whole world be capitalist one day? (いつか世界全体が資本主義に向かうのでしょうか?)

珠代:全ての国って言ってもねえ・・・うふふ(意味不明の笑い)

 

質問6、What is the free market? (開かれた市場とは?)

珠代:えっ、フリーマーケットって、蚤の市のこと?

 

質問7、Bill Gates has billion of dollars. Many people in New Orleans live below the

poverty line. Is that capitalism? (ビルゲイツは何十億ものお金を持っています。

一方、ニューオーリンズに住む多くの人は貧困線以下の生活を送っています。

これでも資本主義と言えますか?)

珠代:(ようやく英語を話したが)I want to be Bill Gates.と意味不明な答え。

 

質問8、If capitalism is so great, why are there many people living below the poverty

line in capitalist counties? (もしも資本主義はそれほど素晴らしいなら、

どうして資本主義の国々には貧困線以下で生活している人々が多いのですか?)

珠代:(最後の締めくくりとして再び英語で)Because they are rich!と再びお寒い

トンチンカンな答え。

 

そして私は珠代さんと雑談を始める。

力車「珠代さんって、イタリアに住んだこともあるんですよね?すごいなあー」

珠代「景色と食べ物はよかったわよ。でも問題がひとつあってね」

力車「えっ、なんですか?」

珠代「イタリア人って全然英語が話せないのよ」

 

この発言(彼女の本音)を聞いた瞬間、私はふたつの点で驚きだった。

ひとつは、珠代に英語ができないと言われてしまうイタリア人。

そしてもうひとつは、珠代がこれだけ醜態を曝しているにも関わらず、自分は

英語が喋れると思っている図々しさ。

まさに「英語は度胸である」を地で行く珠代であった。