海外で働く!就活日記 ● IT系の日系企業

就職斡旋エイジェンシーから電話があった。

「IT系の日系企業が日本人顧客相手の営業マンを一名募集しています。

ITの専門知識がなくても大丈夫なポジションだそうです」

「いいじゃないか!」私はその会社まで早速面接に向かった。

いきなり現地法人の社長が現れたところをみると、いきなり最終面接。

商談中の営業部長もあとから合流すると言う。

「こりゃ、話が早いや。やはりIT系の会社だけのことはある」

 

社長の年齢はおそらく40代中盤と若く、以前ジジババが多い家電メーカーに

勤めていた私は新鮮な感じを受けた。

社長との面談では過去の経歴などをひとしきり聞かれたが、感触は非常に

よかった。

「ITの知識はさほど重要ではないけれど、我が社では社会人の経験がある即戦力

が欲しい」とか「引っ越しの時に呼ばれるので、家電の知識があればあるほど

いい」などと、私に好感を持っていると思われる発言が幾つかあったからだ。

 

こうして社長との面談が無事に終わりかけた頃、商談中の営業部長が面接に

加わった。

「えっ?この人が営業部長なの?」営業部長と言えば、うるさ型のうっとうしい

オヤジしかイメージできなかった私は面食らってしまった。

(私の霊視によれば)渋谷のブティックのカリスマ店員風のその女はおそらく

30才中盤で、コギャル出身。たいして勉強もせずにそこそこの有名私大に

潜り込み、大学時代に短期留学した経験を錦に、時代の追い風に乗った

大手IT企業に運よく採用される。

日本でオペレーラーを勤める派遣社員200名を統括するマネージャーとして

頭角を現し、グローバル時代の到来と共に、再び時流に乗って海外駐在員となる。

色気を武器に社内のオヤジに食い込みながら、地位と金が人生のすべてであると

信じているが、付けまつげと化粧が剥がれた瞬間、あっと言う間にバケの皮が

剥げてしまうタイプ。

「よろしくお願いしまーーーす!」彼女(以下、ドン・キホーテと呼ぶ)は

私にも媚びるような上目づかいで挨拶した。

「売上のストレスとかって大丈夫ですかーー?」

「数字の方もだいじょうぶーー?」

「チームの中で提案とかもしてもらったりしてるんですよー。できますかあー??」

「Can you introduce yourself ? 一応英語力のチェックもさせて頂いているん

ですよー」

そして私が1分英語で自己紹介すると、「オッケーで~す!」

「あと一個、質問していいですかー?ゴルフはするんですかー???」

「えっーしないの!?しようよー」

 

ちなみにこの会社は日本人であれば誰も知っている会社である。

私は業界や会社が違うと、本当社風が違うことを知って、楽しくなった。

「こんな会社で働いたら楽しいだろうなー」と。

しかし結果的に私は落とされた。

面接は終始なごやかに進み、先方の質問はすべて想定済のものだったので、

すべてうまく答えられたように思う。

私に足りない点があるとしたら、ITの専門知識がないことだったが、

その点についてはドン・キホーテも「研修があるから大丈夫でーす。

今活躍しているのは、ITのことを知らなかった人達ばっかりでーす」

と言っていた。だとしたら、ゴルフか?幾らなんでもそんな訳はあるまい。

 

私が察するに、面談後、社長とドンキの間で以下のような会話が交わされた

のではないか?

社長「ドンちゃん、今の人どうだった?」

ドンキ「いいけど、私の年上ですよねえー」

社長「チーム内でのバランス取れそう?」

ドンキ「ちょっと重いですかねー。大企業出身でプライド高そうだし。

自分の実績をやけにアピールしてませんでした?」

 

負け惜しみを承知で言うと、このような判断(年上、重い、プライド、

組織のバランス、アピールし過ぎなど)は日本企業でこそ働くものの、

海外の会社ではまずないと言える。

むしろ自分の経験・スキルなどを積極的にアピールしない限り、誰も相手に

してくれないものだ。

 

とは言え、我が国日本の企業やドンキを批判したところで一銭にもならない訳であ

り、自分の経験・スキルを多少積極的にアピールし過ぎたことが反省点だと感じる

私には、一抹の淋しさが残った。