インドの食事情
私の住んでいたグルガオン郊外のマンションから歩いて数分の所にショッピ
ングモールがあったが、その中にある大型スーパーマーケットでは、食料品
や生活用品の他、輸入物のアルコール類、アイスクリーム、調味料、菓子な
ど、日常生活に必要なものは何でも手に入った。
肉類に関しては、鶏肉とマトンしか売っていないが、少し先の所にある別の
食材店に行けば、冷凍輸入された牛肉や豚肉、海老や烏賊などを手に入れることができる。
この店のオーナーは、インドの諸宗教の中でも、めずらしく肉食にオープン
なシーク教徒で、ヒンドゥー教徒が食さない牛肉や、イスラム教徒が食さな
い豚肉を輸入し、米や麺類、アルコール類などと共に、日系および韓国系の
レストランや居酒屋に卸している。
とりわけグルガオンは、日韓の企業が多数進出している土地柄でもあり、
ここ数年で日本料理や韓国料理の店が増えているため、このような食材店が
出現するようになってきた。
街中では、インド人相手の外食産業も大盛況で、マクドナルドやケンタッ
キーでは、休日ともなれば若い人や家族連れを中心に大行列ができている。
宅配ピザのチェーン店も普及しており、ちょっとしたパーティーやビジネ
ス・ランチなどに使われている。イタリア料理やビアホール、飲茶の店など
も多数出店しており、車で多少の時間をかけてレストランに行く労さえ厭わ
なければ、カレー以外の選択肢を持つことが可能なのが今のインドである。
とは言え、一般的にインド人は食に対して非常に保守的であり、多くの人は、インド料理以外のものを食すことにほとんど関心がないようである。
インド料理に使われる香辛料の強い刺激は、インド人にとって無くてはなら
ないものであることに加えて、歴史的、宗教的に、肉食に関する多くの制限
や慣習があることもあり、食べ物に対するこだわりは強い。
実際、インド人と日本へ出張しても、多くの者は、日本に到着したその日
から、インド料理が食べたいと言う。インド人は一日三食、カレーを中心と
したインド料理を食べるのが普通であり、食に関して、あたかもヒンズー
至上主義が根付いているかのようである。
インドでは、ベジタリアンとノン・ベジタリアンに大別されるが、ベジタリ
アンの人口構成は約四十パーセントくらいのようだ。いずれの場合にも、
宗教的な戒律だけでなく、経済力や食に対する嗜好などもあり、食生活の
あり方は個人のよって様々である。
ベジタリアンの場合では、ジャイナ教徒のように、卵や乳製品を食べなかっ
たり、土の下で取れた野菜しか食べない厳格な人達がいる一方で、肉食こそ
しないもののアルコールは嗜む人もいる。
ベジタリアンと言うと、貧相な体格を思い浮かべるかも知れないが、富裕者
になるとベジタリアンであっても肥満体系の人は多い。油のたっぷり乗った
甘い豆カレーや砂糖を二杯入れるミルクティー、砂糖の固まりのような
スウィートは、べジ・ノンベジにかかわらず、インド人の好物なのだ。
ノン・ベジタリアンとは肉食を行う人のことであるが、彼らが食する肉類は
基本的にチキンやマトンである。ヒンズー教徒にとって牛肉がタブーであ
り、イスラム教徒にとって豚肉がタブーであるため、人口の八割以上を占め
るこれら二つの二大宗教の戒律の影響により、街中の食材店やスーパーで売
られているのはもっぱらチキンやマトンということになる。
南インドなど海に面した一部の地域以外では、魚介類を食べる文化もないの
で、インド料理のレストランに行けば、タンドリーチキンやバターチキ
ン(カレー)がノン・ベジタリアンにとっての定番メニューである。
但し、ノン・ベジタリアンと言っても、毎日、肉食を行っている人は少な
く、信奉する神様の戒律により、特定の曜日は菜食のみとしたり、
あるいは慣習や経済的な理由で、週に数回だけ、夕食にチキンやマトンなど
の肉食を取り込むといったケースが多いようだ。