インドのヒジュラ

叙事詩「ラーマーヤナ」の舞台として知られる南インドの有数

の聖地ラメシュワラムで、湾を周遊するボートに乗っている

と、隣の席に若い男女のカップルが座った。

だが、この女の様子がどうもおかしい。パートナーの男の肩に

腕を回しながら、外人である私に大きな声でベラベラと話し掛

けてくる。

社会的な束縛が強いインドでは、都会ですら女性がこのような

態度を見せることは決してない。船内のインド人たちは、彼女

の様子を、眉をしかめて眺めている。

「これは臭う!」私は女の顔を検分したが、顎の下に飛び出た

太い剃り残しのヒゲが発見して合点がいった。

「やはりヒジュラか!」

「ヒジュラ」とは半陰陽とも、両性具有とも、第三の性とも言

われ、先天的に半陰陽の者から後天的に去勢した者まで様々な

ようであるが、インドでは(よく気を付けて見ていると)化粧

を施し、綺麗なサリーを着たごつい男にしばしば出くわす。

特殊カーストに属する彼らは、宗教的な儀式や結婚式でお囃子

役として登場するが、普段はヒジュラの集団で暮らしながら、

路上で車の窓を叩きながら物乞いをしたり、売春をしている者

も多いという。

それにしても、船内のヒジュラはぶっ飛んでいた。野太い声で

歌を歌ったり、ゲラゲラ笑いながら相手の男にキスしたり、

挙句の果てには、突然立ち上がって踊り出したり。とにかく

圧倒的な存在感なのだ。

船を降りると、私は腹が減っているというふたりを朝食に誘っ

た。ちょうど船着場の目の前に私が宿泊しているゲストハウス

があったのだ。

「どこから来たの?」と私はバナナを食べながらヒジュラに

聞いた。

「昨日、マドライから来た」

「この女と結婚してるのか?」今度はわざと男に聞くと、

「ギャハハハ!!!!」とふたりは大笑いを始める。

「じゃあ、恋人なの?」

「こいつが恋人?まさか!ただのマテリアルだよ」男がヒジュ

ラの顔を嬉しそうに見て言うと、ヒジュラも大笑いしながら男

の首を絞める。

朝食を食べ終えると、ヒジュラは私に言った。

「あんた、ここに泊まってんでしょ?」

「そうだよ」

「今日、マドライに帰るんだけど、バス代がないんだよ。

今から200ルピー(400円)でセックスしない?」

「半陰陽の世界ってどんなんだ?」

真剣な顔で「ヤレよ、ヤレよ」と頷いている男の視線を感じな

がら、私の妄想は膨らんだ。

f:id:rikishasusumu:20150503102646j:plain

(参考写真)