恐ろしや、先入観

「お母さんにガンが再発した」と父から電話で聞いたのは、

父の亡くなる1ヶ月前で、さすがに能天気な私も急遽シドニー

から一時帰国することになる。

 父は末期の肺ガン、母はリンパ腫再発、実家の隣には96才の母の父(私の祖父)もいる。

 母は前回のリンパ腫は腰や太ももだったが、今度は首に転移していることがシコリで分かった。前回は抗がん剤の入院で、その間かなり痛い思いや吐き気があったので、家族全員の気持ちは重かった。

 母が入院となれば、父を自宅療養させることができなくなり、父も即入院だろう。

  帰国後、私は母に付き添い大病院に検査の結果の聞きに行ったが、幸い首のリンパ腫は非常に局部的だった。医者の説明によると、前回のように抗がん剤の点滴でなく、放射線の治療でも行けるとのこと。その場合、4週間くらい通院し、入院は不要。痛みもなし。

 結果的に、放射線治療を行うことにし、今日で通院も終わった。

 私は自分自身ガンに罹ったこともなく、まったくガンの知識がない人間であるが、今回知ったのは、抗がん剤より放射線治療の方が、患者の身体に負担がなく、入院が不要であることだった。(もちろん、ガンの種類などにより、一概には言えないのだろうが、少なくともリンパ腫である母の場合はそうだった)

 私は先入観として放射線は抗がん剤(点滴)よりも大変なものだと思い込んでいたので、非常に意外な気がした。実際、一回抗がん剤治療を受けたことのある母ですらそう思っていたのだ。

 だから、忙しい医者から、「点滴と放射線どっちを選びますか?」なんて言われたら、「放射線は怖いので点滴でお願いします」なんて言ってしまうことは世間では起きていないのだろうか?

 医者に限らず、長い間同じ仕事をしていると、自分の知っていることを相手も知っていると思い、話してしまいがちである。